RICE on STAGE 「ラブ米」〜I'll give you rice〜 2018/4/21~4/30@品川プリンスホテルクラブex
美味しいごはんを食べた時、思うことはシンプルだと思います。
夢中で食べて、「ご馳走様でした」をして、心と体が温まっているのを感じる。
「RICE on STAGE ラブ米〜I'll give you rice〜」はそういう美味しいごはんのような舞台でした。
イナゴの危機から学園を救い、米米フレンズとして友情を結んだラブライス、ST☆RICE、GAZEN BOYSの前に、最強の敵であるフリーカが現れます。
この最大の危機を前に、あきたこまちはラブライスを飛び出してしまいます。そのうえ、GAZEN BOYSの2人はフリーカに洗脳され手下に、そして、アフリカから帰ってきたST☆RICEの3人も、後輩2人を残しフリーカへ付いていってしまいました。
バラバラになってしまった米米フレンズたち。
フリーカを倒し、日本の食文化を守ることはできるのでしょうか。
前作に増したパロディネタに、演出・村井雄さん手がける独特な世界観の演出が光ります。
稲穂学園に「未確認焼きそば飛行物体」が迫るという台詞に自分の耳を疑った後、おもむろに現れ客席を浮遊する“某インスタント焼きそば”を見た時の「マジか…」感は、きっと舞台を観ないと感じられないでしょう。
個人的に初日のインパクトが強かったのは、フリーカの登場シーンです。
天井から巨大な照明が降りてきて、大量に焚かれるスモーク。これでもかと思うほど焚かれるスモーク。客席に向けてだめ押しのように噴出するスモーク。観客の視界を容赦なく奪うスモーク。(さすがにDVD収録日は控えめになっていました)
リピーター客も多いラブ米ならではの「悪ふざけ」に笑うしかありませんでした。
そして、ラブ米の名物になっている「トカゲ」。今回は平山に加え、米フェスの際にアフリカへ行っていたST☆RICEのネリカ、トヨハタモチがトカゲとして客席から登場。
米がトカゲになるという意味の分からなさ、そして、「私たちはトカゲからカメレオンに進化したのです!」というセリフ。進化論めちゃくちゃだよ!
「意味わからない」もこれだけ立て続けに起こると、理解を通り越して納得してしまいます。米米キャストたちはこれを「洗農(洗脳)」と言っていました。噛めば噛むほど味が出るように、「洗農」されて本当の美味しさに気づくような舞台です。
コメディを言葉で説明しても仕方ないので、大人が真剣に悪ふざけするこの舞台に、必死で食らいついて「ハートフル米ディ」を作り上げた米米キャストの話をします。
主演ひのひかり役で、座長の田村升吾くん。
大げさではなく、彼がひのひかりだったからこそ、今こうやって RICE on STAGE 「ラブ米」は完成しました。
もっと経験があって器用な役者を使ったら、ラブ米の味わいは違うものになっていたのではないかなと思います。
ある意味では、彼の成長を追ったこの1年でした。
このとんでもない世界観の作品で、座長を若くて経験も浅い田村くんにした、その狙いがピッタリはまっていました。
パロディに溢れたコメディ舞台という側面と、若いキャストが体を張って全力で挑む姿。ラブ米がふたつのおもしろさを持ったのは、田村くんが座長だったからでしょう。
ガムシャラに気張っているように見えた初演と比べ、今作は頼もしく、そしてニコニコととても楽しそうな姿が印象的でした。
ひのひかりがラブライスやフリーカに訴える熱いセリフは、田村くんの人柄があってこそだったと思います。
そして、そんなリーダーひのひかりを支えるラブライス。
舞台上で何か起こると、佐野真白くん演じるにこまるとひのひかりはよく視線を交わしていました。
前作あまり目立たない位置にいたあきたこまちがこれだけ躍動したのは、白石康介くんの不思議な、良い意味で不可解な魅力ゆえでしょう。個性的な米米キャストの中でも、一番度胸のある役者だと思います。
ひとめぼれ役の前川優希くんは、輪を飛び出した自由な姿が多かった前作と違い、今作は輪の中でラブライスを支えていました。
彼も勇気ある役者で、ぐだぐだのアドリブ中に彼の一言が場を納める場面を何度も目撃しました。「あはっ」と声が聞こえてきそうな笑顔も素敵です。
ささにしき役の星乃勇太くん。星乃さんという安定した存在があってこそ、ラブライスは自由に個性を発揮できたのではないかと思います。
ささにしきの役柄もあって、冷静に縁の下で支えている印象が強かったです。
そんな影に徹しようとする星乃さんの「おもしろさ」を引き出そうと、兄鴨はいろいろ星乃さんをいじってくれました。
魅力的な穀物はたくさんあります。
パンは種類豊富で美味しいし、フリーカは栄養豊富で低カロリーです。
でも、この作品の主人公はお米です。
馴染み深くて、でも他国から入ってきた穀物や食文化に少し押され気味なお米です。
可愛くて一生懸命で愛おしい、ラブライスのキャスト達はお米を演じるのにぴったりな役者でした。
今回「ハーベストショー強化合宿」という、毎回窒息するほど笑っていた地獄の即興劇コーナーはありませんでしたが、兄鴨は遊べそうな時間を見つけてはキャストの裏話をして、米米キャストの魅力を伝えてくれました。
なかなかひやりとすることもありましたが、ラブ米らしくておもしろかったです。そして何より、自分は汚れ役を演じながらも、若い米米キャストを、ラブ米を盛り上げようとする兄鴨の愛を感じました。
ラブ米の物語はシンプルで熱いです。
バラバラになってしまった仲間取り戻して最大の敵を倒す。最後は敵であったフリーカすらも仲間として迎え入れる。
それまでの過程はめちゃくちゃだし、感動的なはずの場面だってそこかしこにギャグが散りばめられて素直に感動なんてさせてもらえません。
ST☆RICEの「1人より2人がいい、3人より5人がいい!」というセリフ。
ラブライスが学んだ「雑穀MIND」「異なる価値観、異なる宗教観を認め合い、一緒に食を楽しむ心」
本当に大事なことはこうやってシンプルなことなのかもしれない、と思わせる力がラブ米にはあります。ほとんど力技ですが、米米キャストたちが声を合わせて叫び、一緒に歌う姿を見ると、ほだされて一緒に炊き上げられてしまうのです。
これもある意味、「洗農」鴨ね。