キイロイ

ホシノつくヒト

「RO-DOKU音戯草子2016 KOIBUMI inサンリオピューロランド」6月26日 昼の部と夜の部

初めての朗読劇。座って読むのかなぁと思っていたら、そんなおとなしいのは4作中1つだけで、あとは大小あれど動きのある演劇だった。今回演出のほさかようさんの作品は「女王の盲景」と「眠れない羊」を(思い出せる限りでは)観劇したことがあったが、その二作と今作の雰囲気は少し違う。二作では世界観を密に作る印象だったけど、今回は朗読劇だからかKOIBUMIだからかピューロランドだからか、遊び心に溢れた作品だった。
特に「長靴を履いた猫」猫役を演じた古川裕太くんは客席から登場したかと思ったら劇中もほとんど椅子に座ることなく舞台上を駆け回っていた。芝居を止めて「水浴びの途中で溺れたのになんで服着てんの?」「芝居はさぁ、情熱だろ?!」「気持ち入れてこーぜ!?」とカラバ公爵役和久井大城くんを脱がしたり、客いじりがあったり、前半の2作品はそれでも静かだった分、思い描いていた朗読劇像がここで崩れ去った。そして古川くんがこういったアドリブの必要な芝居や吹っ切れた演技をするのもなかなか珍しい。おとなしそうなお顔を大きく歪めて作るさまざまな表情も本当におもしろかった。音楽に合わせて踊ったりとびきりの笑顔でにゃ〜と鳴いたり、悪い顔もドヤ顔も怯えた顔も古川くんの動きや表情はあくまでチャーミングな分、猫の行う殺しや脅しといった行為の残虐性が浮かび上がって恐ろしい。以前ミッ◯ーが悪者を徹底的に追い詰めこてんぱんに攻撃し、最後にはボロボロになった悪者をミ◯ーと笑って見るという短編アニメを見たときに感じた恐ろしさに似ている。お話の最後、長靴(誰かの私物っぽいドクターマーチンだった)を履いた古川裕太は自分を「み〜んなに愛される猫だからさ」と言ってたいへん可愛らしい笑顔とポーズで鳴いた。芝居をとことんコミカルにチャーミングに描くことで童話に隠された残酷さを浮かび上がらせる、良い意味で後味の悪い作品だった。
最後の作品は「死神と老女」これは最初の作品の「死神の精度」と繋がっていて、よくある手法ではあるけど最初の場所に戻ってこれる舞台には安心感がある。暗い雨の音や橙色の照明の中で古谷大和くん演じる死神と老女が静かにやり取りするしっとりとした雰囲気。かと思いきや、途中死神古谷くんが客引きをするシーンで突然客席の観客に声をかけ、次のシーンでは声をかけた数人の観客を舞台に上がらせる。この演出の良し悪しは置いといて、あのしっとりした雰囲気の芝居の途中でこの演出を入れる勇気はすごいなと感心してしまった。老女を演じた東てる美さんの声は耳に心地よい。古谷くんの死神は浮世離れした雰囲気がよく出ていて、芝居染みたセリフも説得力がある。降りしきる雨と死神の冷たい匂いを、老女と古い美容室の匂いを、澄み渡る青空の匂いを確かに嗅いだ気がした。
KOIBUMI企画もそれはそれは素晴らしい時間だったけれど、これに対して感想を書くのはあまりに個人的な思いが強くなりすぎてしまうので割愛する。
夜の部の挨拶で「今年は朗読劇はやらないはずだったけれど、僕が朗読劇が苦手なので1年に一回はやりたいと思い、わがままを言いました」と古谷くん。とても幸せな時間だったので、古谷くんのわがままに感謝です。映像どころか写真すらないなんて...あの場にいることができてよかったと心から思う舞台でした。