キイロイ

ホシノつくヒト

2016年12月15日マチネ「パタリロ!」紀伊國屋ホール

開演前客席に流れる昭和の代表的な音楽。回るミラーボールにカラフルな照明。わたしは昭和の時代を知らないが、チカチカと明るく浮き足立った雰囲気が普段は重厚な紀伊國屋ホールに広がっている違和感。幕が開いて連れていかれたのは古き良きなんでもありな昭和世界だった。平成の観客に向けた昭和を生きたキャラクターからの発言に何が始まってしまうのかすでに付いていけないまま始まったM1は、まさかの「花とゆめ」「白泉社」讃歌。ここはどこだ、とか、きっとそんなこと考えてはいけない舞台だったのだ!
加藤諒さん演じるパタリロは奇跡的な三頭身の潰れあんぱん。こんな人間本当に居たんだ…と不思議生物を見る感覚は、きっとそのままパタリロと出会った多くのキャラクターたちの感覚だ。
彼を囲むタマネギ部隊が可愛い。コミカルな動きに「タマタマ」という鳴き声(?)はしゃぐ姿に踊る姿。個を持たないゆるキャラのよう。メーキャップをオフした素顔は美少年のはずだが、美少年というよりおもしろお兄さんだった。注目は石田隼くん。1番小さくて1番よく動くタマネギ。ひし形の口がよく似合っていた。
いわゆるアンサンブルの魔夜メンズも無視されず、フューチャーした場面があるのは新鮮だった。彼らがありとあらゆる役になるおかげで舞台上はいつもガヤガヤしている。カーテンコールで出演者が並んだ時、これしかいなかったんだ…と驚いたほどの存在感で舞台を盛り上げていた。
印象的だったのは青木玄徳さん演じるバンコラン。細長い手脚に小さくて端正に整った顔、そして何より声と話し方がバンコランそのものだった。あの渋い声だからこそ、パタリロとのちょっとしたセリフのやり取りやマライヒにお熱な様子がおもしろい。佐奈宏紀くん演じるマライヒは可愛らしい顔立ちながらも全体的にやや大きい。ただ本当に見た目が綺麗な2人なので絡みシーンは絵になる。歌う2人を見ながら、わたしは昭和の時代に「花とゆめ」を開く女生徒になった気分だった。BLがジャンルとして確立する前。期待に胸を膨らませながら漫画誌を開き、バンコランとマライヒのキスシーンに今まで感じたことのない胸のときめきを覚える。劇場を埋めるのは、年代はばらばらでも、教室の隅でクックロビン音頭を踊っているようないつかの女生徒たちだった。
そのクックロビン音頭、いつ出るかいつ出るかと思っていたのだがなかなか登場しない。クックロビン音頭が入りそうな場面で流れるのは「ダンシングなまはげボーイ」。どの曲もなんだかクセになるのでプレイヤーを買っておけばよかった。そして物語のクライマックス、バンコランの窮地。物語にどっぷり浸かってハラハラしていたところに、パタリロがタマネギを率いて登場。「パパンがパン」え?!「だーれが殺した、クックロビン」ここで?!深刻な顔をしていたバンコランやマライヒまで踊り出す。パタリロとタマネギは客席に降りてきてしまう始末。私は思い出す。そうだ、この舞台では考えるなんて無意味だった…
技術を競いあうような2.5次元演劇で、小道具がちょいちょいハリボテなのがチープでかわいい。バンコランの目力はレーザーポインターを使った物理攻撃だった。ラストを飾る曲は2018年春に決まった新作公演の予告。前代未聞だ。この舞台、結局内容なんて無いに等しい。それでも劇場中で悪ふざけをするような楽しさが充満していた。私は2018年春までに「ポーの一族」と「ガラスの仮面」(ネタが多少わかるくらいには)を読んでおくことを誓って、昭和の世界を後にしたのだった。